2025/10/13 19:30
「北海道生活」編集長
食の映画祭3日目|美食の饗宴!料理学会から、深夜食堂&孤独のグルメ夢のコラボディナーへ

さて3日目は、ふたたび道庁赤れんが庁舎にやってきました。
レッドカーペットは新たな観光スポットのようになっていて、訪れた人たちがレッドカーペットで記念撮影をしていましたよ。

こちらで行なわれていたのが、「世界料理学会 in FOOVIE」。
2009年に函館で始まった、料理人による料理人の学会「世界料理学会 in HAKODATE」。私も第1回からずっと函館で取材し続けている、料理や食を取り巻く環境などについて学ばせていただいている学会です。
昨年の映画祭では特別プログラムとして札幌市で初開催され、今年も開催も開催されることになりました。
「世界料理学会 in FOOVIE」と交流会の特別メニュー

深谷宏治(函館/レストラン ラ・コンチャ ・イ・バスク)
「世界料理学会 in HAKODATE」主宰の深谷宏治さんは、函館の料理人。
この映画祭が「サンセバスチャン国際映画祭」をきっかけに誕生した(後述)ものなのですが、深谷さんはサンセバスチャンというスペインの小さな町で修業し、このまちが「世界一の美食のまち」になるまでを見て来た人。

サンセバスチャンで料理人たちがともに学ぶようになり、やがて食のレベルを高くしていったことから、自分の故郷・函館でも料理人がまちを変えることができるのではと料理学会を立ち上げました。
来年6月の開催に向けて、仲間とともに熱心に飛び回っています。この15年通いつづけていますが、まったく年を取っていない、いつでもフレッシュな深谷さんです。

間光男(TERAKOYAオーナーシェフ)
東京都小金井にあるフランス料理「TERAKOYA」三代目の間(はざま)光男さんは、料理学会でも初期からいらっしゃる常連シェフです。
実は曽祖父の方が北海道開拓に関わっていて、この赤れんが庁舎に資料が残っているとのこと。北海道の開拓時代からご縁があったのですね。
『料理のスタイル(様式)の自由な発想』というテーマでは、フランス料理、日本料理といった「国でセグメントされる料理」から解放された、新しい料理様式についてお話されました。

日本料理の一汁三菜、200年前の伝統的なフランス料理といった古来のものから、バイオテクノロジー、新しい道具や機械、化学、哲学など多岐にわたる最新のものまで、あらゆる分野のものを自身の料理の中に取り入れ、"発想の跳躍"から生まれる料理の数々に、ここでは書き表せないほど圧倒されました。

南雲 主于三(東京「スピリッツ&シェアリング」)
東京「スピリッツ&シェアリング」の南雲 主于三さんは、「あらゆる液体をカクテル化する」というミッションのもと、様々な業態をまたいで既存にない新しいカクテルを生み続けている日本随一のMIXOLOSIST(ミクソロジスト)。※公開資料より
これまでの料理学会でカクテルという分野から新風を巻き起こし、当時のシェフたちからも注目された南雲さん。
『国産素材とMixology』というテーマで、欧米で90年代から始まったというミクソロジーの世界と最新のカクテル、素材など多岐にわたるお話でした。

カクテルに必要なコンテンツとして、味はもちろん、香り、再現性、そして地域性(ローカライズ)などなど、さまざまな要素が組み合わされていて、北海道にしかない素材は大きな可能性を秘めているとのことでした。
かなり多数かつ緻密な情報の整理にAIも活用されているそうで、料理学会にも、いよいよAIの時代が到来したのかと驚かされました。

高尾 僚将(札幌「TAKAO」)
札幌で「TAKAO」という唯一無二のレストランを営む高尾 僚将さんによる、
『道産子ガストロノミー 地方の可能性』というテーマでのお話。
札幌でイタリア料理店を開くも、ビル改修により休業、いったん三國清三シェフのレストランを立ち上げるため上海に渡ったことが、その後の人生を大きく変えます。
北海道の食材がいかに素晴らしいかを実感したという高尾シェフ。

上海から帰国し、支笏湖のほとりにいた一年間、森に入り、森で食材を仕入れていたと言います。
やがて森のことや野草・樹木のことをもっと知りたくなり、アイヌの方々との出会いにつながります。
森と共生しているアイヌの食の知恵を敬い、北海道の自然から得られる素材から生み出される「北海道スパイス」を「TAKAOラボ」で作っているそうです。
今では食を通して北海道の土地や食文化をブランディングして行こうと「道産子ガストロノミー」を提唱。(ガストロノミーとは美食学のこと)
その想いは二風谷の若い担い手にも伝えていくなど、北海道の料理人として頼もしさを感じることができました。

最後はいつものポーズで!(学会の最後は料理人たち登壇者で行なうポーズ)
札幌版はフービーフェスの中のプログラムとしてミニ学会となりますが、本家の函館の学会は2日間にわたる大きな学会です。
興味を持った方は、ぜひ来年の6月に行なわれる学会にも行ってみてくださいね。
学びを味わってみて実感!世界料理学会 in FOOVIE 交流会
函館の料理学会では、学会とは別に交流会があります。
交流会では、登壇者のシェフたちが語った料理哲学やレシピに登場する料理がピンチョス(一口料理)になって、実際に味わうことができるのです。
映画を見て、出てきたメニューが食べたくなるように、学会で学んで、出てきたメニューが食べたくなります。
この世界料理学会 in FOOVIE 交流会でも、同じように味わえる機会がありました!

南雲さんの「カカオパルプフィズ」(モクテル)と「ベルガモット&フィアシャンディ」(カクテル)は、柑橘、ハーブ、カカオなどそれぞれの素材が緻密に計算されたもの。
それでいて口にした時、飲みやすくて美味しい!とシンプルに感じてしまう、魔法のようなカクテル(モクテル)でした。

南雲 主于三「カカオパルプフィズ」(モクテル)&「ベルガモット&フィアシャンディ」(カクテル)

間シェフの「ジャガイモのパンケーキにのせた北海道産秋鮭白子のクロメスキ、生ハム、パプリカとともに」は、今が旬の秋鮭の白子を揚げて、ジャガイモのふんわりしたパンケーキと生ハムではさんだ、絶妙なバランスの味わいの一品。

間 光男「ジャガイモのパンケーキにのせた北海道産秋鮭白子のクロメスキ、生ハム、パプリカとともに」

高尾シェフの「山のエキス」は、実際にご自身の店でも出されているメニュー。
水を一切使わず十勝マッシュのエキスのみでつくられ、森の香りとともに味わえる究極のスープです。

高尾 僚将「山のエキス」
講演のよりもリラックスした空気が流れ、おいしい時間が楽しく過ぎていきます。
昨日は深谷さんたち学会のみなさんは遅い時間まで語り合ったと聞きました。
東京からいらした間さんと南雲さんは「もう一泊したかった!」と残念がっていたそうなので、またぜひ、近いうちに北海道へ来てほしい!と思います。
「続・深夜食堂」小林薫と「孤独のグルメ」松重豊の仲良し舞台あいさつ
「TOHOシネマズ すすきの」では「続・深夜食堂」と今年1月に公開されたばかりの「孤独のグルメ」が上映。

「孤独のグルメ」舞台あいさつのMCは、北海道でグルメといえばこの方、森崎博之さんです。
3日目も元気いっぱい、松重さんとのトークのやり取りも楽しいです。
全編おなかが鳴りそうな映画、出てきたメニューが食べたくなる中で、森崎さんが食べたかったのは韓国料理だそうです。

この作品の陰の立役者、フードコーディネーターの飯島奈美さん。この方に会えるのも個人的にとっても楽しみでした。
食といえば映画「かもめ食堂」でその名が一躍有名になった方で、この方の作る料理はとってもおいしそうで、それでいて役者さんたちが食べても本当においしいそうです。
松重さんは「深夜食堂」で飯島奈美さんと仕事をして感動し、この劇場版「孤独のグルメ」でも一緒に食のリサーチに海外まで飛び回ったという、楽しいエピソードも聞けました。

と、ここで「深夜食堂」から小林薫さんが登場!
実は先に上映された「続・深夜食堂」の舞台挨拶で、松重豊さんが"友情出演"したそうです。
とても仲良しな一コマを見られて、お二人ともグレイヘアですが、役柄ではピシッと黒髪でその役になりきっているので、その役もご本人もすてきだなあと惚れ直しました。

小林薫さん、松重豊さん、飯島奈美さん
孤独のグルメ&深夜食堂の世界へ!「一夜限りのSPECIAL FOOVIE食堂」
この夜、大倉山ジャンプ競技場そばにあるフレンチレストラン「ヌーベルプース大倉山」では、最終日の最後を飾るスペシャルディナーが行なわれました。

「食堂たかはし」とは、札幌にあるフレンチレストラン「ラ・サンテ」の高橋毅シェフが月に1回だけ開く"メニューの決まっていない"お店。
いつも予約満杯なので、一度も行けたことがありません。
それが、このレストランの中で、特別に一夜限りの開店となります!


メニューは「深夜食堂」にちなんだメニューを高橋シェフが、
そして「孤独のグルメ」にちなんだメニューをヌーベルプース大倉山の荒木隆宏シェフが手がけるという合作です。
合わせるワインも「ドメーヌタカヒコ」など道産ワインが充実しています。

まず最初に出てきたのはグジェール(シュー生地の一口料理)と、なんと豚汁!

髙橋シェフ、なんと「深夜食堂」にちなんで豚汁をつくってくださいました!
映画よりも具材を多くし、サトイモでなくジャガイモを入れた北海道風の豚汁です。
外はかなり冷え込んでいたので、最初にうれしい一杯です。

「ニキヒルズワイナリー」の「ネイロ ペトナット2024」で乾杯!

「食堂たかはし」のお惣菜盛り合わせは、「ラ・サンテ」にはない意外な和食の前菜。
お月見団子、燻製卵、ナスの田舎煮、小松菜のおひたしに、きんぴらは和田ゴボウ、サツマイモは由栗いも、チャーシューは遊ぶた、と使う食品は高橋さんならでは。
秋鮭にカラスミとレモン麩をはさんだ一品もおいしかった!

髙橋シェフ!天才!と挨拶に行ったらピースをしてくれました。
三笠高校の料理の審査員とお仕事がかさなったそうで、大忙しだったと思いますし、この日も大変だったシェフの笑顔に「ありがとう」です。

ロールキャベツのようになっているのは、「帆立とキンメダイのシューファルシ」。

「孤独のグルメ」で、井ノ頭五郎がパリの食堂で出会ったロールキャベツ、そして、オニオングラタンスープが組み合わせたと、荒木シェフ。

そして出てきたバゲットは、「長崎ちゃんぽん用の小麦粉をつかったバゲット」!
そう、長崎ちゃんぽんも「孤独のグルメ」に出てきた!

こちらのバゲットを手がけたのは、「ブーランジェリー・コロン」の村本シェフ。
映画にも出て来る五島列島で、パン屋さんにいたこともあり、わざわざ長崎ちゃんぽんの小麦粉を取り寄せてパンにしたそうです。
先ほどのスープに浸して、パンをかみしめて「ちゃんぽん」をイメージしながら楽しみました。

「北海道産牛ほほ肉の"ブッフ・ブルギニョン" 季節の野菜ときたかむいのピューレ」も、
「孤独のグルメ」に出てきたビーフのブルギニョンを荒木シェフがアレンジ。
そうそう!これも食べたかった!とうれしくなりました。きたかむいというジャガイモのピューレや野菜とおいしくいただきました。

驚かされたのは「食堂たかはし」の「おじや風リゾット 落葉キノコと紫のモチキビを添えて」。
「深夜食堂」の過去のシリーズに「おじや」が出てきたのをヒントに、ムラサキの真珠のような「もtもち太郎パープル」(アンビシャスファーム)というモチキビの粒々感がアクセントになっていました。

デザートに「フランス産栗のクレームブリュレ トンカ豆のアイスクリーム」、そして、「食堂たかはし」の庭の野草茶で、一夜限りの特別ディナーは終了。
思い出に残るフルコースでした。

司会の森崎博之さんもそれぞれの料理に感動されていて、食と映画のイベントにふさわしい最後のフルコースについて、シェフたちに熱心にインタビューされていました。
髙橋シェフ、荒木シェフ、村本シェフ、そしてソムリエさんと厨房と生産者のみなさん、ごちそうさまでした!

秋元市長のご挨拶では、この映画祭が美食のまち・サンセバスチャンで行なわれている「サンセバスチャン国際映画祭」にヒントを得たもので、このたび札幌市とサンセバスチャンが連携協定を結んだとのこと。
しかも、映画祭での連携協定と、美食のまちとしての連携協定、その両方なのだそうです。
札幌が美食のまち・映画のまちとして、サンセバスチャンのように大きく発展する将来が楽しみです。

最後の乾杯は、実行委員長の伊藤亜由美さん。
ご自身が手がけた大泉洋主演映画「そらのレストラン」がサンセバスチャン国際映画祭に招待され、その時の感動が今の形として実現化した、そのことに、関わったすべての方々やスタッフに感謝を何度も述べていました。

締めはサンセバスチャンのチャコリで乾杯!
「HOKKAIDO FOOVIE FES 2025」の3日間、たくさんのプログラムに体ひとつでは対応できませんでしたが、まだまだ素晴らしいプログラムがあったと思います。
また来年、楽しみにしています!
(「北海道生活」編集長)