2024/03/10 19:30
「北海道生活」編集長

北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

3月9日(土)、札幌にて「『あさきゆめみし』✕『日出処の天子』展〜大和和紀・山岸凉子 札幌同期二人展」が開幕しました!

3月24日(金)まで2週間限定の展覧会です。

北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

会場は札幌の中央バスターミナル近くにある東1丁目劇場(旧・北海道四季劇場)で、「北海道にマンガミュージアムをつくりたい」という大和和紀さんと山岸凉子さんお二人の意思を受け、札幌市の協力で実現した展示です。

※以下、一ファンである私にとっては大和先生、山岸先生と書きたいところですが、文章が先生だらけになってしまうので、読みやすさとして「さん」付けにさせていただくことお許しください

北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

大和和紀さんの『あさきゆめみし』、山岸凉子さんの『日出処の天子』のといえば、かつてマンガ少女だった私も連載時から夢中になって読んでいた作品。この時代の少女漫画と呼ばれた作品は、娯楽を超えて文芸作品であり芸術作品でした。

入口には萩尾望都さんから二人に祝花があり、会場に入る前からみなさんのテンションが上がっていました!

北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

初日は大和和紀さんと山岸凉子さんによるトークショーが行なわれました。

漫画家さんは素顔を出さない方が多いので、実際にお会いできる機会とあって、会場はファンの方々で満席になっていました。

では、お二人のトークショーのお話(と終了後に行なわれた囲み取材)を一部抜粋しながら、今回の展示についてご紹介していきましょう!

漫画家を多く生み出した北海道


北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

まず大きな北海道地図に書き込まれた、たくさんの漫画家の名前。

北海道出身、または北海道にゆかりのある漫画家さんの数は350人以上、全国では東京・神奈川・大阪に次いで全国4位という多さです。

「自分の好きな漫画家が、こんなにたくさん北海道出身だと知って、(数だけではなく)ルパン、ガンダム、ゴールデンカムイと、ヒットメーカーもとても多い。それを北海道で知られていないのはもったいない。ぜひミュージアムにしたいと思いました」と札幌出身の大和さん。

このミュージアムの話を持ち掛けたのが、同じく北海道出身の山岸さん。空知地方の上砂川町に生まれ、小樽、函館と引っ越し、高校時代は札幌で大和さんと友人になったという長いお付き合いです。「大和さんからお話を聞いて、いいんじゃない?って軽く受けてしまいましたが、そんな構想がうまくいけばいいなあと思っていました」と山岸さん。

そんな二人の想いを実現すべく、まずはその第一歩として、札幌市の協力のもと二人の展覧会を開催することになったそうです。

【展示】札幌の二人 ~漫画家を目指した高校時代


北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

ここでは札幌で高校時代を過ごしたお二人の思い出をたどることができ、マップにはお二人のコメントがびっしり書き込まれています。

大和さん「高校生は喫茶店に入るのが禁止されていた時代でしたが、父が喫茶店をしていたので、二人で父の店で会うことが多かったですね」。

山岸さん「当時は学校で漫画を読むのも禁止でした。大和さんは初めての漫画友達で、高校の時から絵がものすごく上手だった」。

大和さん「歴史の授業では、できごとをイラストにして覚えてましたね。だから歴史のノートは、ほぼ漫画(笑)。山岸さんのイラストは昔から変わらない。ミケランジェロとかすごかったですね」。

山岸さんは「小学校高学年から小樽のバレエ教室に通っていて、高校に入ってやめたんですが、バレエの絵を描いて教室に持って行ったりもしました。先生は困ってたと思います(笑)」。

北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

そんな二人にとって大きな出来事は、漫画の神様・手塚治虫さんが雪まつりのイベントで札幌に来たこと。当日のようすを描いた山岸さんの漫画が掲示されています。

大和さん「漫画家になりたい一心で、関係者達がいる中でどうやったら手塚先生と直接会えるだろうか。なんとか手塚治虫先生に原稿を見てもらいたい、と必死でした」

山岸さん「そんなことも知らず(笑)イベントで手塚先生を拝見して感動していました。その日、先生に原稿を見てもらうことができたのは大和さんのおかげです」。

北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

このコーナーでは、札幌で生まれ育った大和さんの、子どものころを描いた漫画も掲示されています。

子どものころは大通公園が遊び場だったという大和さん、のどかな雰囲気のなか子どもたちが自由に遊んでいるようすが描かれ、今の大通公園とはまたちがった昭和の札幌の風景がよみがえります。

【展示】二人の代表作を紹介するミニコーナー


北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

大和和紀さんは1966年にデビュー、1977年に『はいからさんが通る』で第1回講談社漫画賞を受賞。

高校時代、歴史のノートがほぼ漫画だったという大和さん。漫画家になってから「時代物は売れない」という定説をくつがえし、『あさきゆめみし』や『はいからさんが通る』など時代物でヒットを飛ばします。

「『源氏物語』は長くて難しいと敬遠されていた。それが、もったいないなと思って題材に選びました」と大和さん。

私も高校時代、『あさきゆめみし』のおかげで古文の授業を乗り越えることができ、そういう人は日本中にいると思います。

山岸涼子さんは1969年にデビュー、1983年に『日出処の天子』で第7回講談社漫画賞を受賞。

小樽のバレエ教室に通っていた経験が、漫画家になってから『アラベスク』や『テレプシコーラ』でバレエの世界を描かれているというつながりに感動を覚えました。

『日出処の天子』については、「聖徳太子の像に剣が入っていたという新聞記事を読んで、ずっと気になっていたんですが、漫画家になってから矢代まさこ先生に梅原猛『隠された十字架』という本に聖徳太子のことが書かれていると教えてもらった。その本を読んだとき、一気にストーリーが浮かんだんです」。

飛鳥時代に平安時代、いずれも北海道にはなかった時代ですが、だからこそ自由に描けたのかもしれないと大和さん。
「北海道は湿気がないので、ドロドロした話も乾いた感じになるのかも。“乾燥系”みたいな。山岸さんの描く細い線で描かれているも、すっと世界が飲み込みやすくなるんだと思います」。

【展示】モノクロとカラーの原画に感動!


北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

さて、いよいよメインとなる「原画展示」のコーナーへ。

「モノクロ原画展示」と「カラー原画展示」の2カ所に分かれているのですが、取材時は大変な数の人であふれかえっていたので、二つの会場をまたぎながら人と人との隙間で撮影できるぎりぎりを撮っていました。

北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

まず「モノクロ原画展示」では、大和さんと山岸さんそれぞれのスタイルで漫画の原画を展示しています。

私も実はずいぶん昔に漫画の編集を少しだけしたことがあるのですが、確か90年代まではセリフのフキダシにある活字「写植」を貼っていました。
雑誌や単行本では見られない、写植やホワイト、スクリーントーンなどが見えるのがとっても面白いです。

大和さんは『あさきゆめみし』の「若菜 上」より41ページ分の原稿を展示。
「一番好きな部分で、源氏のストーリーの転換期。アシスタントの技術も安定している時期で、最も美しく王朝絵巻が描けた時期だと思っています」。

山岸さんは『日出処の天子』から名シーン42点をピックアップし、それぞれに裏話をコメントしています。

『あさきゆめみし』は思わずストーリーに引き込まれてじっくり読んでしまうし、『日出処の天子』は1点ずつのコメントが面白いし、観客の方の歩みが相当ゆっくりになってしまうのはしかたありません。

北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

カラー原画展示では両作品から45点を展示。

『あさきゆめみし』では、まさに絢爛豪華な王朝絵巻に見とれてしまうのですが、トークショーで「トレーシングペーパーの上に描いた」というカラー原画は、インクの乗り方や透け感についつい見入ってしまいました。
(アップの撮影はできないので、こちらはぜひ、会場でご覧ください)

北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

『日出処の天子』でも、とにかく線の細かさと彩色の美しさ、そして龍など幻想世界の描かれ方に、いつまでも原画を見てしまいます。

トークショーで「カラー紙に直接描いた」という原画や、「当初なかった足首をポスター制作の際に足した」という裏話も聞けました。

本当は一点ずつ先生方のトークショーに沿って全部お伝えしたいくらいですが、会場にいた方々の特権ということでどうぞお許しください。


【グッズ販売】『あさきゆめみし』✕『日出処の天子』展オリジナルグッズ


北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

初日、『あさきゆめみし』と『日出処の天子』の御朱印帳など、ほとんどのグッズが売り切れという大盛況で、グッズ売り場は長蛇の列でした。

北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

アクリルスタンド、マスキングテープ、キーホルダーと、この機会に手に入れておきたいファンのココロをくすぐるものばかりです。

北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展

アクリルキーホルダーはグッズ販売とは別の場所にあるカプセルトイコーナーでも手に入りますよ!

二人の展示から、「北海道マンガミュージアム」へ


今回の二人展は、北海道出身の漫画家として、北海道の漫画家や漫画文化を伝えたいという「北海道マンガミュージアム構想」から始まったもの。

これだけ大きな功績を残されたお二人ですが、まだ序章にしか過ぎません。今後どのように、350人以上もいる漫画家さんをつなげて「北海道マンガミュージアム」になっていくのかと思い、囲み取材でお二人に質問をさせていただきました。


――漫画家の多くは雑誌を出している出版社に守られていて、出版社の壁というものがあるそうです。


別々の出版社から出ている『あさきゆめみし』と『日出処の天子』を出すにあたり、出版社の壁はどういうものでしたか?


大和さん「本当に出版社の壁というのは大きいんです。こういうイベントはまず主催者がいて、代理店が出版社そして編集部に話を持っていって、その3者で決めていくんですけど、今回は、山岸さんはフリーで、私も出版社を通さなかったので実現できたんですね。別々の出版社が一緒にやるというのは難しいです。」


先日、世田谷の古い洋館を山下和美さんら漫画家の方たちが協力してギャラリーとしてよみがえらせたニュースがありましたが、「あの時初めて、ほかの出版社の漫画家の方にお会いしたくらいです」と大和さん。


かなりベテランの方同士でもなかなか交流の機会は少ないようで、山岸さんも「同じ会社の単行本は送ってきてもらって読めますが、『あさきゆめみし』は他社の作品なので当時は読む機会がありませんでした」とお話されていました。


もともと友達同士だったことから出版社を通さずに実現ができたとのことですが、今やSNSなど交流が自由な時代になっていますので、出版社の壁を越えた人と人とのつながりがミュージアムの実現を後押ししてくれるかもしれません。


そして会場にはお二人の手書きによるメッセージボードがあり、来場者が付箋でコメントを寄せることができます。ファンの皆さんの応援もきっと力になると思います。



北海道にマンガミュージアムを!大和和紀&山岸凉子展



――最後に、北海道に対する、お二人それぞれの想いをお聞かせください。


大和さん「北海道は大好きです。札幌で生まれ育ちましたので、とくに札幌が好きです。この時期は花粉症にならなくて済むのがいい。空気がいい、水がいい、風景が美しい、おおらかになれる。東京とちがって、少し落ち着いた感じが好きです。でもやっぱり食べ物が一番かな(笑)」


山岸さん「故郷が一番というのは、誰しもだと思うんです。だから私が北海道を好きというのは当然なんですけど、上京して漫画家になってからほとんど帰ってなくて、年に一回のお墓参りで上砂川町に行って、しかも日帰りで帰ってしまうので、札幌のことすら知らなかった。でも今回のことで北海道のことが気になるようになって、やっぱり北海道愛はつよかったんだなあと思っております(笑)」


小学校からずっと学生時代、私たちの生活にあった漫画。中でも『あさきゆめみし』と『日出処の天子』という名作を産んだ漫画家のお二人がいずれも北海道出身で、同じく北海道から生まれたたくさんの漫画家さんの功績をひとつにまとめられたらと願っています。


一日も早くその日が迎えられるよう、この展示を通して「北海道マンガミュージアム」を応援していきたいと思います!


(編集長)


【イベント概要】

「『あさきゆめみし』✕『日出処の天子』展~大和和紀・山岸凉子 札幌同期二人展」

会期:2024年3月9日~24日

会場:東1丁目劇場(札幌市中央区大通東1丁目)

料金:大人1,500円 高校・大学生1,000円 中学生以下無料(ローソンチケットまたは会場で当日券を購入)

詳細は札幌市HP




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