2023/11/21 11:30
北海道生活

北海道 移住インタビュー|ニセコ町に移住して、小さな神社を継ぐ

(本誌「北海道生活」 2022年12月3日発売・冬号 掲載)

北海道の“このまち”に来るまでと、まちに移り住んでからの“暮らし”について、移住定住インタビュー。今回は、ニセコ町(にせこちょう)に移住し、世界的スキーリゾート地にひっそり佇む“小さな神社”を継いだ宮司さんのお話し。

【ニセコ町】後志地域にある山間部のまち。札幌市・新千歳空港よりそれぞれ車で約2時間、小樽からはJRニセコ駅まで鉄道で約2時間。

vol.2 ニセコ狩太神社(かりぶとじんじゃ) 


宮司 玉置 彰彦(たまき あきひこ)さん

北海道 移住インタビュー|ニセコ町に移住して、小さな神社を継ぐ

ニセコ狩太神社の宮司をつとめる玉置 彰彦さん

世界的スキーリゾート地に、ひっそり佇む神社


冬にはパウダースノーを求めて国内外からスキーヤーが訪れるニセコ町(にせこちょう)。かつて、この地は「かりぶと狩太村」といい、1964年(昭和39年)に「ニセコ町」と名称が変わりました。ちょうど東京オリンピックの年で、やがて1972年(昭和47年)には札幌冬季オリンピックが開催、ニセコも国際的なスキーリゾートとして発展していきます。
道道66号線(岩内洞爺線)に面して建つ「狩太神社(かりぶとじんじゃ)」は、開拓期より刻まれてきた歴史を静かに見守ってきました。おおなむちのみこと大己貴命(おおくにぬしのみこと大国主命のこと)を祭る村の鎮守でありながら、参拝する人は少なく、おみくじも御守りもなかったという小さな神社。ここに、明治神宮を10年つとめたという玉置 彰彦(たまき あきひこ)さんが宮司になったのは2017年のこと。なぜ日本を代表する大きな神社から、ニセコ町に移住して小さな神社を継いだのでしょうか。そこには、まったく違う理由がありました。

北海道 移住インタビュー|ニセコ町に移住して、小さな神社を継ぐ

ニセコ狩太神社

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奉納された2個の日高石。対の夫婦岩とすれば、時を経て自然と名石になる

一冊の本との出会い、海外の旅が運命を変える


父の転勤に伴い、日本各地から海外まで一家で引っ越していたという玉置さん。「静岡にある全寮制の高校に入れられた頃は、かなりやんちゃになっていました」と笑います。大学時代もバブル期とかさなり、面白いほどお金が手に入り、相当遊んでいたそうです。ところがバブルも崩壊。
そんな時に出会ったのが、沢木耕太郎の『深夜特急』でした。青年が海外を放浪する紀行小説は当時の若者に絶大な支持を受けましたが、玉置さんもその一人。バッグパッカーとして外国へ。訪れた国は40カ国を超えました。「安宿では世界中からバッグパッカーが集まり、自分の国を自慢する。イタリア人ならイタリアを誇りに思っている。それなのに、日本人は日本のことをわかっているのだろうか、と考えるようになりました」。

一枚の写真を見て、退職して北海道へ移住


凛とそびえる羊蹄山の写真。友人は、この山のあるニセコ町へ移住して仕事をするといいます。そのとき、玉置さんは「自分もニセコ町へ行きたい」と、長年つとめた明治神宮をあっさり退職したのでした。「直感って大事なんです。神様がカンニングペーパーを見せてくださるようなもの。すぐにやらなかったら、なぜやらないのかという理由で頭が埋め尽くされてしまう。まずは直感を信じてみるしかない」と玉置さん。東日本震災も体験し、東京で住み続ける必要があるのかと疑問に思っていた頃でもあったそうです。

何も決めずにニセコ町へ移住。友人とルームシェアしながら、外国化していくニセコ町で日本文化のあり方を模索する日々。伝統ときまりに守られた明治神宮での忙しい日々から180度転換した、先の見えない自由な暮らしを送っていました。

ふたたび神社へ、日本初のカナ名を実現


ニセコは水も空気も、食べものも美味しい、とシンプルな幸せを感じていた玉置さんですが、地元の狩太神社がつぶれてしまうという話を耳にします。「実は全国にたくさんある小さな神社は、後継者不足でなくなるところも少なくない。宮司も10から20の神社を掛け持ちして手いっぱいです」。狩太神社もまた、存続の危機にありました。そこで、ボランティアとして神社を手伝うように。やがて「神社を継いでくれないか」と宮司に頼まれ、考えた末に引き受けることにしました。

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拝殿の内部には畳を入れ、仲間たちの援助で改装した

古い小さな神社を立て直すことにした玉置さん。各地にいる仲間に呼びかけて、ぼろぼろだった拝殿を改修、人々がお参りに来られるようととのえ、おみくじや御守、御朱印帳もつくりました。そして多くの人に来てもらえるように「ニセコ狩太神社」への改名を申請、2017年11月、日本初で唯一となるカナ名のついた神社が実現しました。
「神社は気づきの場。日常の中で大事なことを見つけ、感謝の心に気づかせてくれます。ニセコ町に住んでいる方も、遊びに来る方も、ぜひお参りに来ていただけたらと思います」。

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おみくじや御守も玉置さんが宮司になって置かれるように。社務所も自らリフォームし、ここで生活している

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2023年は卯年。祀られている大国主命は神話の「因幡の白うさぎ」にもつながる。偶然にも玉置さんの干支だという

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「祝」の書は、NHK大河ドラマ「おんな城主直虎」の題字を手がけた、フランス在住の書家 Maaya Wakasugi から贈られた

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「都会だけに住みつづけるのはおかしい」と直感で移住を決めた玉置さん。「移住の相談をされることもありますが、まずは先を考えずに行動するのをおすすめしています」

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